Wikipedia LIB@信州 #3に参加して

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県立長野図書館、当日の様子


今回、1月25日に県立長野図書館で開催された「Wikipedia LIB@信州*1」にお伺いさせていただきました。今回のイベントは通算3回目の開催となり、もう一人の講師であるAsturio Cantabrioさん(通称かんたさん)は、皆勤賞とのことで私は羨ましがっていたりします。今回含めて、長野県のウィキペディアに関連したエデッタソンで私がお伺いさせていただいたのは、2017年の伊那市高遠に始まり、松川村・白馬村・飯田市に続いて5イベント目の参加となりました。町を歩かずにウィキペディアを編集するイベントは、恒例となっている「ウィキペディアブンガク」以外のシリーズではあまりないように思います。

イベントのハッシュタグは、 #wplib03でまとめていただきましたので、twitterのタイムラインや公式まとめは、以下のページからご覧いただくことが出来ます。また、もう少しニッチな世界を語られたかんたさん、参加者のあこさんのレポートもこちらからご覧いただくことができます。

開催に当たって

参加者がテーマごとにテーブルに振り分けられた形でスタートしました。チーム編成は、経験の有無や参加者の所属属性(大学・高校・図書館員・行政など)を踏まえる形でチーム編成を考えていただいたようです(小澤多美子氏)。プログラムは、オリエンテーションと実際の編集時間とに大きく二分されました。実際には、以下のようなスケジュールが組まれました。

自分の説明

発表で使用したスライドについては、イベント開催中にSlide shareにアップロードさせていただきました。今までの三大方針の説明よりは少し手厚い説明を心がけました。まだまだ改善の余地があるので、みなさんのご意見をお伺いしながら今後も頑張ります。

もう一つは、編集画面の説明をスクリーン上で試行したことです。今までは配布資料で進めていたのですが、今回は紙資料なしで進めたのですべて、画面上で進めました。ただ、これは参加者属性が図書館関係者で全員がパソコン・タブレット端末を持参しているからできることであって、その点は未だ課題のままです。つまり、パソコンやタブレットを持ってきていない方にはよくわからない説明になってしまう可能性があるわけです。

私の講演は、スタート時間が繰り下がっていたこともあり、時間をスケジュール通りに戻す努力をしていたのですが、少し戻しすぎてしまいました(反省)。なので、会場の皆さんからの質疑応答時間という形にしていただいて、皆さんからのコメントをいただきました。

質疑応答時間

 一点目は「高校の研究にウィキペディアをどのように使うことができるか」というものでした。

初めに、ウィキペディアは百科事典であるということです。例えば、卒業研究論文などを作成する際に、ある事象について「情報の入口」として使うには有効だと考えています。しかし、新たな価値を生み出すことに主軸が置かれる研究というものの場合(もちろん事例研究などもありますので、例外はありますが)には、ウィキペディアに掲載された内容を根こそぎ使い倒すことはできないわけです。

授業などの学校現場においてウィキペディアを編集するということについての注意するところのご質問もいただきました。

ウィキペディアンや教育現場の方、アウトリーチを専門に行っている方など、さまざまな方が編集に携わっている状況下なので、それぞれの考え方があるということを前提にお話しさせていただきましたが、実際の学校におけるカリキュラムや単元との関連性を含めて、その学校・授業にあった仕組みづくりを行わないといけないと考えています。一筋縄ではいかないところもあると思いますが、編集のルールをご存じない先生とその受講者が、(ある意味で急に)授業で編集を行い、行った編集がルール違反(もしくは間違った)行動を取ってしまった場合に、先生のフォローが効かなくなる可能性があります。私の立場からお願いできるのであれば、計画の段階で周囲にご相談していただいくことで、課題発見やルール把握ができると思っています。スケジュールや企画面も含めて、ふわっとした状態・イメージで一度周囲にご相談できるのが良いと考えています。そして、このような場をうまく利活用して頂きたいです。

関連して、だてさんからもコメントをいただきました。

実際に調べ学習に使っている中で伝えていることは「ウィキペディアの情報を鵜呑みにするということはもちろん論外」ということです。つまり、掲載されている情報はだれが集約して記事化させているのかがわからないということです。ただ、例えば数百ページある郷土資料のうちの3行しかない内容が「これはこの本のこのページに書かれている」ということをしっかり明記して作られているウィキペディアの記事もある。ウィキペディアは百科事典なので、まったく知らない題材の概要を把握して、そこに使われている文献を辿っていくというレファレンスツールとしては使えると思う。

二点目は、資料を探す・下書きを作るといったウィキペディアの編集の流れについて、図書館にある資料がすべて正しいとは限らないという問題点もあるだろう。そのような問題があることを前提に司書は情報を捉えているが、高校生はそれを鵜呑みにしてしまう可能性があると思うが、どのように考えているのかというものでした。

ウィキペディア上では「検証可能性」を謳っている、本に記載されている内容が重要となる。もし書籍に掲載されている内容が現実と異なっているのならば、異なっている内容を示す文献を探し、それを記載することになる。そのような状況下においては、どちらが事実なのかという判断を、ウィキペディアンが即座に判断するわけではないわけです。この場合には、別の資料を用いてその情報をさらに深堀することや、どのようにその情報を取捨選択していくべきかを、ノートページ(記事の議論を行う場所)で決めていくことになります。

 それに関連して、平賀館長からもご発言をいただきました。

このようなイベントは「図書館の本って正しいわけじゃないんだ」という客観化を持てる機会である。ただ受け取る機会とするのではなくて、情報を表現するという経験することによって、“情報に対する姿勢”を実感する機会になり得るという示唆もいただきました。

畔上さんからはCCライセンスの説明

かんたさんのスライドはご本人のブログをご覧いただくことにしましょう。今回の講座は、著作権関係の講座ということもあり、県立長野図書館から畔上友里さんのご説明です。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCと呼んでいますが)が持つ意味であったり、使い方、応用的な活用法などを短い時間ですが、わかりやすいセンテンスで説明いただきました。

一番印象に残っているのは「ライセンスを付与してみんなのものとして共有することができる。ぜひ、ccを使ってみて!付けてみて!」と必死にアピールしながら、浮世絵(だったかな)があしらわれたオリジナルお年玉袋を会場で回覧していたこと。むしろそこしかないかも。

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「CCライセンス」についてご説明される畔上さん

今回は、箕輪町図書館(新規)、長野市立図書館池田町図書館県立長野図書館(加筆)の4テーマが用意されました。実際には新規執筆については、別のテーマを準備していたのですがイベント二日前に記事が作成されるという(イベント運営側的な)アクシデントがありました。

今回の編集ポイントや私のコメントをまとめてみました。順番は執筆に関する報告発表順です。

  1. 池田町図書館:副館長にインタビュー。広報誌・データベースなどの分担分けを実施。副館長のインタビューは素直に楽しそう、自分がやりたいくらい。 
  2. 長野市立図書館:既存情報を加筆。出典がほぼない、特色の記載ない状態から加筆。南部図書館から始まっており、移動図書館もある。南部図書館の旧名称が、通明(つうめい)図書館であったのでその点の確認が大変だった。何も考えずに書き出すよりはネタを考えてから執筆するのは順調に行った要因。
  3. 県立長野図書館:館内の情報がなにもなかった。検証可能性の観点から見るともっと何もない。情報と文章作成を完全に分業した。情報の選択が難しかった。図書館にとって必要な部分を抜き出す能力はやはり図書館職員。フロア構成は自分たちでイメージを作ったら面白くなる。 
  4. 箕輪町図書館:本日の目標は「投稿する」。3町村合併で出来た図書館であり、これをきれいにまとめていただいた。とりあえず図書館記事の形になった。

編集のレビュー後、再度平賀館長からご挨拶をいただきました。

図書館だけではなく“知ること”に関わっている人に参加してほしい。できれば、企画を何か考えていただきたい。特に図書館の方は、普段のイベントとは全く違うこんなことにも、人間が引っかかるんだということを経験してくださったと思います。そういう人を相手にしていて、いろいろなアプローチ、寄り添える術があるのではないか。ウィキペディアはそれをよく表現できる素材だと思う。“もっと知るのが楽しい、深く調べたい、読む図書館から表現するための図書館”に時代とともに変化していくことが必要だと考えています。強くお伝えしておきたいのはウィキペディアタウンだけではなく「新たな気付きの場」をぼくら図書館はもっと作らないといけない。そんなことも県立図書館と市町村立図書館やGLAM*2が連携できる方向にしないといけない。かんたさんが「趣味としてウィキペディアを書く」ということ、脱ウィキペディアとも発言されていたが、地域でも個人でもそういう世界に行きつければよいと思っています。

今回の「Wikipedia LIB」では、図書館主宰イベントの新しい方向性を模索している瞬間を垣間見ることができました。実際のところ、コアな編集者ではないけどイベントには参加してくださったり、個人的にもお付き合いしてくださっている方と議論すると、図書館を含めたGLAMの枠を飛び越えた、市民コミュニティの次元を目指さないといけない。という話をしたこともあります。専門家でもなんでもない私がつらつらと意見できる立場ではないのですが、ウィキペディアの編集イベントが持つ副次的要素を、ウィキペディア側からだけではない方向からもう少し深堀できると面白いと感じた一日でした。

*1:を見よ:『ライブラリー・リソース・ガイド』第25号(2018年秋号) アカデミック・リソース・ガイド, 2019.1, pp.99-100

*2:Galleries・Libraries・Archives・Museumsをまとめた単語。つまり、美術館、図書館、公文書館、博物館などの文化機関