東日本地域で初めて開催された没年調査ソンに参加、ヒットは打てず。

一昨日2月11日、神奈川県立図書館で行われた「没年調査ソン in 神奈川」に参加させていただきました。没年調査ソンは、京都や福井での開催はありましたが、東日本での開催は初めてとのことです。没年調査ソンの名前は、エディッタソンと同じく、没年調査+マラソンの略称にあたります。いつもウィキペディアブンガクなどでお世話になっている田子さんが実行委員を務めていらっしゃいました。開催理由について、田子さんは冒頭のあいさつで「開催されたら行こうと思っていたら、やればいいじゃないっ、となったわけです。」とやる気満々の発言されていました。

実際の調査に入る前に、没年調査ソンの概要説明や実施方法を国立国会図書館(NDL)の水野さんから頂きました。「典拠データ」など、著者の生没年等のプロフィールデータの作成というお仕事が図書館内であるのもあるが、毎回の没年調査ソンでの作業は、担当としてはすごく楽しいのでもっと広げたいというのが一番の本音とのこと。

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水野さんからのレクチャー、会場からは笑いも生まれます

没年調査ソンがスタートした理由は?

著作権が問題ならない例で「保護期間が満了している」というのが一つ重要になります。様々な要素があるものの、おおよそは著作権者が逝去して(没年)70年というのが満了の基準となります。保護期間が満了していると、対象者の著作物が自由に使用できる。自由に使えるようになった一例として、NDLデジタルアーカイブでオンライン公開が出来たりする。その期間を算定するのには、没年が必要になる。というわけです。

というわけで、没年調査ソンが始まったのは、NDL資料デジタル化がその理由です。実施にあたり、資料の著作権について判断する場面が発生します。没年が分かれば、著作権の保護期間が必然的に判明し、判断が容易になります。しかし、没年不明な方がたくさんいらっしゃるというのが現状のようです。

また、著作権は著作物単位で考えることが通例とのこと。例えば、ある本の著作物を捉える際に、著作権者が一人なのか、複数人なのかで取り扱いが異なる。つまり、本文・挿絵・題字・編集者が異なる場合も多くあるということ。このようなものを一点一点確認していく作業をデジタルアーカイブの公開に際して、行っていく必要がある。どうしても不明な場合には、国の判断(文化庁長官裁定)で著作権の取り扱いを決定できる場合もある。ただ、よくある話として、図書館の蔵書検索システム(OPAC)における著者表示は主要な人物のみを上げている場合が多く、そのまま情報としては不十分とのことでした。

実際の作業方法

今回のイベントでは主催者側で用意した253名のリストから参加者に選択していただき作業を行う形式が取られました。この表には、通し番号や人名のほかに、検索難易度(没年が判明しやすい度合い)や主な著書・業績なども明記されていました。神奈川県に関連した人物を中心にセレクトしたとのことでしたが、A3用紙で数枚にも及ぶ量になり、一通り読むのさえも大変な印象です。私は全部読める気にはなれなかったです。

その調査対象リストは、2つの情報源から作成されたとのこと。一つは、国会図書館の公開調査リスト。NDL職員が調べたけど、当時は見つからなかったものなどがこれにあたります。こちらから発見できると、デジタル化資料公開につながるかも、という期待大のデータです。もう一つは、NDL典拠データ検索・提供システム。こちらは、デジタル化してないものを含めた著作者DBでNDLでも未調査なデータです。どちらも重複しているものがあったようです。

次にこのリストに書かれている人について、何か情報が見つけたら、ホワイトボードに、(1)253名リスト上の通し番号、(2)名前、(3)生没年、(4)情報源の情報の4点をホワイトボードに手書きしていきます。ウィキペディアの脚注のように「あとで誰でも探せるように」しておくのがポイント。一番欲しいのは没年情報なのですが、生年情報もあると嬉しいそうです。人間200歳とか生きられないわけで、生年がわかると文化庁長官裁定が使えるかもしれないようです。もちろん、生没年がわからなくても著作情報などだけでもうれしいとのこと。

著者の没年を調べるには

図書館が製作した「パスファインダ」もあるが、新聞記事はもちろん、雑誌にも訃報欄がある。また、大学など学校の同窓会名簿や広報などにも掲載されることがある。例えば博士録などなど。また、訃報記事から読み取れるのは、亡くなったという情報だけではなく、写真・略歴や喪主(親族)など様々な情報が読み取ることが出来るツールになっている。ご家族の情報がわかると、記事に情報の漏れがあったとしても、ヒアリングして情報の不足を補ったりすることが出来るそうです。もちろん、特定の時点で亡くなっているという情報も重要とのこと。

水野さん曰く、これまでの調査ソンを見ていると、参加者の情報調査方法は大きく2種類に分類されるといいます。

一つ目は、聞き込み命の「刑事ドラマ派」。検索性が高いこと、情報収集範囲が大きな網のように広い。調査方法は、とりあえずNDLデジタルアーカイブでお名前を検索。デジタルアーカイブの検索では、テキスト化されている目次などはページ検索のようにテキスト閲覧が可能になっており、目次だけで没年調査ができる場合もある。蛇足で、著名人となると「偲ぶ会」が多く開催されていたので、その記事が新聞に掲載されることもあるそうだ。また、専門雑誌でも同様の記事が掲載されることがあるらしく、そちらも使えるとのこと。行き詰ったらGoogle Booksというのも話題に上がっていました。

二つ目は、スマート解決「探偵小説派」。レファレンス調査並みのがっつり調査。意外と効率が悪かったという例もあって、難易度は高めとのこと。

没年が見つかっても...焦らず

世の中には同姓同名がいらっしゃるのはご存知の通り。そういう場合の同定は、肩書・出身地・著作・著作分野で判断されているそうです。あとは、書籍や論文などの刊行年と生没年の双方を見比べてみて、年相応の著作かどうかを見ているそうです。つまり、5歳でこの資料は書けないだろう...とか、120歳で本を出版!?という想像を働かせているそう。ただ、同姓同名で片方が著名すぎて、同年代にご存命で、同じ職業だった場合という例もあったそう。例えば吉田茂「首相」と「議員」ということもあったそうです。

どちらにしても、最終的にはNDLの担当スタッフさんが責任を持って、同定の判断してくださるそうです。以前「全然見つからなかったので帰りたい...」という方も過去にいらっしゃったそうですが、不安は無用!

そして、没年調査ソンを楽しむ3つのコツを伝授いただきました! 正しい探し方はない、ムキにならない・焦らない、図書館業務ではありません(ぜいたくな探し方をしましょう)。最後がミソになりそうです!

ヨミダス歴史館は手の込んだデータベースだった

引き続き、読売新聞メディア局事業部の秋山さんから「ヨミダス歴史館」について、ご説明をいただきました。実際には画面上で操作しながらの説明ですので、要点を抜き出してみます。

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読売新聞 秋山さんからの説明。裏側まで教えてもらえたのはうれしい。

記事検索では、明治大正昭和・昭和地域版・平成・現代人名録の横断検索が最近搭載された。たとえ外国人の方のお名前が、漢字で新聞掲載されていたとしても片仮名で検索が可能だったり、日本人はひらがなでも検索することが可能になっている。また「セクハラ」など現代用語であったとしても、明治8年の記事が検索でヒットするように構築されている。これは、ベテラン記者がひとつひとつ本文を読みながらタグ付けをしてデータベース化しているという意外と手が込んだデータベース構築がされていて、個人的にはここが一番の驚きでした。そして、現代人名録に掲載されている情報は、新聞取材などで読売新聞記者が一つ一つ取材で集めたものが集積されている。もちろんそこから、データベースにもリンクしている。つまりただ、プロフィールを見て終わりなのではなく、記事まで検索できる流れが出来ている。

最後に、神奈川県立図書館の利用説明を立川さんから頂き、いよいよ調査開始です。

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立川さん「神奈川県図を使い倒してください」

初めての没年調査、結果は?

私は「探偵小説派」で、鶴見町(横浜市鶴見区の前身)の最後の町長をお勤めになられた、中西重造さんを対象に調べていました。しかしながら、探せど探せど資料は出てこない状況であっという間に時間が終わってしまったというのが正直なところです。使ったのは、新聞と書籍なのですが、いずれも当時はご存命であったこともあり、生年までしか判明しませんでした。最後は、千田さんとご一緒させていただいたりして、不安になっていた私にとても寄り添っていただき嬉しかったというのが心の声です。今回調査したのは、鶴見町誌をはじめとした資料です。

  • 西山忠三 編『鶴見町誌』(1925)
  • 藤田晃天・長島誠一 共編『鶴見興隆誌』(1930) 自由新聞社
  • 「[ある明治人の半生涯]「鶴見町」の成立(寄稿連載)」『読売新聞横浜版』(2003.05.28) *開港資料館からの寄稿

ふと思ったのは、新聞の地域版は各図書館でも保管しているのかな、ということ。縮刷版はあっても、地域版は縮刷になってないこともありますし。そんなことを脳裏に思っていました。

調査終了後、参加者それぞれが、調査のノウハウや成果を共有しました。実際のところ、数件分かった方もいれば、私のように没年まで判明しなかった方など、それぞれな結果を持ち寄りました。その中で、神奈川県立図書館の小松さんは「没年を黙々と調べるというのはどんだけ楽しいんだろうな、という興味があった」とお話になり、会場の笑いを誘っていました。

もう一つのはじめて、蒸し鶏

イベント終了後には、いつもの萬里にて反省会。没年調査ソンでは、没年を見つけた方に「ナイスソーン!」と声をかけます。ですが、この日の乾杯もナイスソーン!だったわけで、つい写真を撮ってしまいました(笑)

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「ナイスソーン!」

ここでも一人ずつ反省などコメントをいただきました。私の中では、いつもから揚げ5人前、肉団子5人前、餃子5人前しか食べさせていただけないこのお店で、蒸し鶏や野菜炒めなどをふんだんに食べさせていただけたことが一番の幸せかつ収穫だったのかもしれません。

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蒸し鶏が食べれたのはここ一番の幸せだったかと

いつかリベンジしたい気はあるのですが、リベンジしても成果が出ず、またさみしい思いをしそうです。